バーでの出会い

その日、俺は嫌なことを忘れようと、繁華街をさまよっていた。。。
表通りのネオンや喧騒は、とてもついていけない雰囲気で、とにかく癒されたい
という気分で、砂漠のミッドナイトシティーを徘徊する。

サンタクロースの格好をした売り子が路地の方へ消えていったので、なにか吸い込まれる
ように入ると、一歩外れたそこは、アメリカの60年代といったようなクラシックで
味のある雰囲気をだした店が多い通りであった。
ピエロが芸をしている店もあったけども、その一つ前のシェリー樽を扉に
したようなデザインの重厚な感じのドアを押していた。

中へ入ると心地よいジャズが流れ、薄暗い感じでちょうどキャンドルを灯したくらいの
明るさが今の俺の心とピッタリですごく落ち着けた。

マルガリータを注文してみる。バーテンダーがシェイクして出来上がった時に、
薄暗さにも目が慣れてきて、イスを何個か隔てたところにカウボーイハットを
かぶったカウガールっぽいファッションの白人とのハーフと思われる
まだ20歳を少しすぎたくらいの見た目の女性がいることに気付く。
えッ!?っと思い、ほんの少しだけ目をこらして見ていると、向こうも
こっちを見返し、少し微笑んだように感じ、その間が何分もの長い間に感じた。。。

興奮を覚えた俺は、さっきまでの沈んでいた気分が一気に高揚し、なにを
思ったか、とんでもない行動に移していた。
反射的にともいうんだろうか?
俺の前に注がれたマルガリータをテーブルを滑らすように、彼女の方へ移動させた。

俺の手から離れたマルガリータは彼女の手先へと器用に滑り込んでいきキャッチ
されていた!

したこともないウインクまでした時には、相手方に噴出されて「ウケル〜!」
と言われてしまっていた。

偶然笑わしたことによって、肩の力が抜けたようで、自然と席を縮めて
飲み交わす。俺はモスコミュールを注文し、グラスで乾杯した。

占いに凝ってるという彼女から手相をみたいといわれ、手を触られたときには
ドキッとした。。。

色々と、逆にいうと、身近な知り合いには話せないような悩みも今宵限りかと
思うと自然に口を出ていた。。。

そして時間は過ぎ、店を一緒に出た。酩酊状態でフラフラになりながらも、
すごく爽快で毒を吐き出して足が軽くなっていた。

すると、カウガール「一曲だけ、一曲だけ聴いてください。。。」
と涙を流しながら俺に懇願してきた。
むしろ、偶然の出会いで生き返った俺の方が感謝したいくらいで、
いくらでも付き合いたいと思い聴くことに。。。

クラシックギターを袋から出して、唄いだした。。。
すごく感動を呼ぶ曲であり、声がすごくマッチしていた。。。
吐く息が白い季節とあってか、年末独特の寂しさも手伝って、
彼女の曲に乗せていつのまにやら、一年間を思い出していた。。。
頬が濡れた感じがした。。。あんまりに久しぶりに流した涙であったから
自分からこういうものが流れる感覚を忘れていた。

唄い終わった彼女は崩れ落ちるように。路上に横たわった。。。そして、バッグからは
紙がはみ出していた。。。
しまってあげようと手にとると、歌詞だった。。。彼女の文字で書かれたと思われる
歌詞。。。

これで最後にしようと、シンガーソングライターになるために、最後のオーディションを
受けて、落ちた日だったらしい。。。
ようやくそこで、なぜ一人でバーにいたのかを悟った。

消え入りそうな声で「ふるさとに帰る前に誰かに聴いてほしかった。。。」と。。。
不器用な俺は慰める言葉が出ないから、うなづきながら頭を撫でてやることしか
出来なかった。。。そしてなにか今日元気づけてもらった恩返しは出来ないかと
文章でならと、手紙をしたため、歌詞と一緒にバッグへそっと戻しておいた。

それから数ヵ月後、また落ち込んだ俺はバーで一人でカクテルを飲んでいると、
有線から聞き覚えのある声が。。。そして、俺が手紙に書いた文章の
「必ず必要としてる人がいる。もう一度だけ夢を。目の前いる一人(俺)が聴いてるから。。。」
が入っていた。。。
その歌声を聴いたとき、頑張らないといけないという気になった。。。
2度も助けられてしまい、3度目もあるかな?とつぶやいていた。。
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